【S.楽園への科学】時短!フォン・ド・ヴォライユからグラス・ド・ヴォライユの作り方

皆さん、お元気ですか。

本日は、鶏ガラからとるフランス料理用の出汁であるフォン・ド・ヴォライユとそれを煮詰めてジュレ状にしたグラス・ド・ヴォライユを作りたいと思います。
フランス料理において、フォンをとるということは非常に重要な作業ですが、通常6-7時間素材を鍋で煮込むという過程を経ることになります。しかし、圧力鍋を使うことでこの時間を大幅に短縮したいと思います。
もちろん、このことに関しては科学的な裏付けありです。

また本来は、フォンはコンソメにも使えるような美しい澄んだスープをとるため、鶏の血合いなどと合わせて脂もきれいに取り除くのですが、今回は簡易版ということとコクと旨みを最優先にするため、脂はあまりとりません。
しかし、最終的にグラス・ド・ヴィアンドにして冷やし固めることで、脂の層は概ね分離して固まるので、それをきれいにすくってすてると、ある程度きれいなグラスになります。

では、さっそく見て参りましょう。

材料
鶏ガラ  2kg
玉葱    1個(約300g)
ニンジン 1/6本
ニンニク  1片
ローリエ  3枚

*香味野菜は大体でいいと思います。
本式だと同分量で、玉葱は1個、ニンジンは1本、ニンニクは1-2片、その他にポワロー(西洋ネギ)1/4本、セロリ1本、ブーケガルニを用意すればいいのではないでしょうか。

下ごしらえ
香味野菜から味や香りが出やすいように、ざっくり切ります。
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鶏ガラのうち、首づるなど関節のあるものは、ぶつ切りにし、鍋に入れて水を注ぎ火にかけます。沸騰する際に、アクが出ますのできれいにとり(エキュメ)、茹でこぼします。
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*鶏ガラからの旨みを全て抽出したい、と思う方には別のやり方もあります。
当然、鶏ガラを茹でこぼすという作業をする場合には、茹でこぼした廃液の中に、鶏の旨み成分が多少は流れでていますので、ロスが生じます。
そのため、「アクは温度が上昇する際に出る」という特徴を利用して、一度沸騰してアクをとったあと、氷を投入して温度を下げるのです。そうすることで、再び沸騰に向けて温度が上昇し、その際に出るアクを再びエキュメするチャンスが生まれます。

茹でこぼした鶏ガラを見てみると、胸骨のあるガラの部分に肺や腎臓がくっついています。
この臓器は、茹でこぼす前だと、膜などで骨にへばりついて取りにくいのですが、火を入れるとタンパク質が変性して指を入れるとボロボロとほぐれて楽にはがれるようになります。
ここで、余分な筋膜などのゴミと臓器、血合いなどは取っておきましょう。
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煮出す
茹でこぼした鶏ガラを圧力鍋に入れ、さらに香味野菜を全て加え、再び水を入れて火にかけます。
(今回は、コク出しのためにスパークリングワインを入れましたが、入れなくて全然問題ありません)
そうすると、沸騰した時に再びアクが出てくるので、エキュメします。
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あらかたエキュメが終わったら、圧力鍋に蓋をして、1時間煮込んでいきます。

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ここで、ではなぜ圧力鍋でフォンを作るのでしょうか。
その疑問に応えるためには、そもそもフォンとは何か、という問いに答えなくてはなりません。

フォンとは、素材から旨み、コクを抽出・凝縮したスープです。
これをソースに使うなどして、最終的に素材へと何倍にもそのエッセンスを送り返すわけです。
そして、旨みはイノシン酸、グルタミン酸、グリシンなどのアミノ酸から感じることができます。
では、今回のフォンの素材からこのアミノ酸を生み出せるものは何でしょうか。
イノシン酸は、一般に生体内に広く分布するエネルギー源であるアデノシン-3-リン酸(ATP)の分解産物なので、細胞の存在するところであれば、分布しています。
他方、グルタミン酸は、特にコラーゲン中に多く、グリシン、プロリンに続いてアミノ酸中3番目の存在比率(コラーゲンに含まれるアミノ酸全体の10%)を占めています。
つまり、コラーゲンそのものが旨みなわけです。このコラーゲンをゼラチンに変性させ、イノシン酸とともに水中に溶解させたものがフォンである、と考えることができます。
コラーゲンは、豚足や軟骨、手羽先などに含まれると考える方が多いかも知れませんが、実は骨もコラーゲンそのものです。骨は、コラーゲンがその骨格であり、そこにカルシウムが結合している、という構造をしています。

それならば、いかにして効率的にコラーゲンをゼラチンに変え、イノシン酸とともに抽出することができるでしょうか。
まず、抽出のモデルを考え、次にコラーゲンのゼラチン化を考えます。

以前、拙稿である【S.楽園への科学】タンパク質について(追記あり)において、Fujitaら[1]により、加熱速度が速いか加熱到達温度が高いと、筋原線維たんぱく質であるアクトミオシンゲルは凝集して離水率が高くなり、ボソボソとした食感になっていく、と報告されていると書きました。
つまり、より速く、より高く加熱到達温度を設定すると、筋原線維(つまり食肉)においてはより多く組織から水中にドリップが離水し、それに伴いイノシン酸も流出することになります。また高温にすることで、イノシン酸の代謝酵素も不活化させ、イノシン酸自体の減少も食い止めることができます。
より具体的には、Liuら[2]の報告から、Fig. 1で示すように、65℃以上の温度にすると、アクトミオシンゲルは剛性が低下し、離水していくと考えられます。
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次に、コラーゲンの物性に関してですが、沖谷[3]によると、肉のコラーゲンは60℃を過ぎたあたりから収縮を始め硬くなりますが、75~85℃付近で軟化し始めます。これがゼラチン化で、3本のタンパク質の鎖が注連縄のように巻かれたコラーゲンの構造がほどけてばらばらになり、水に溶けやすいゼラチンになるわけです。
そして、この軟化率は、Fig. 2で示すように110~120℃の間で急激に高まります。
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ここで、圧力鍋が登場するわけです。
通常、沸騰させた水の中で食材を炊く場合、その温度は100℃です。
これは、常気圧ではそれ以上温度が上がらないからです。
しかし、圧力鍋で気圧を2気圧まで高めると、その沸騰温度は120℃に達します。
つまり、コラーゲンは圧力鍋の中では、急激にゼラチン化し、水中へ溶け出していくということです。

煮込み終わりました。
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圧力鍋で炊いたフォンはクリアで透き通っています。
今回は、鶏がらから脂を除去せず、また、素材を濾したあとにギューギューと素材から水分を絞るために最終的には濁ってしまいますが、クリアな澄んだフォンを圧力鍋で作ることは可能です。

圧力鍋のフォンをシノワで濾して、
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フォン・ド・ヴォライユの完成です。
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グラス・ド・ヴォライユ。フォン・ド・ヴォライユを半量以下に煮詰めたものです。
ドロッとしていて濃厚です。こちらの方が日持ちがします。
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これを冷やし固めて、上に形成された油膜層をとると、このようなジュレ状になります。
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最後に、動物の骨からとる洋風の出汁は、ゼラチンが旨みの主成分であり、ゼラチンにはグルタミン酸以外にもイカの甘みの成分であるグリシンなどが多く含まれています。そのため、複雑で厚みがありますが、旨みにキレがありません。
逆に、日本の出汁は、昆布と鰹節からグルタミン酸とイノシン酸を効率よく抽出するため、旨みにキレがありますが、厚みに欠けます。
そこで、昆布、鰹節、日本酒から作る八方出汁に、バターとコーンスターチで厚みとコクを加えたソースも、選択の一つとしてあるのではないでしょうか。これを、殻ごと軽く火をいれたムール貝やらハマグリやらにかけたら美味しそうじゃないですか。

[1]T. Fujita, T. Hayashi and S. Haga (2006). Research on change of physical properties of the actomyosin gel by retorting. Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi, 53, 423-429.

[2]X. Liu, M. Ishioroshi and K. Samejima (1994). Effect of FeCl3 on heat-induced gelation of checken breast actmyosin. Anim. Sci. Technol., 66, 239-243.

[3]沖谷明紘 (1996). 肉の科学. 朝倉書店.

Bistro2983 Chef Patron

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Master of Life Science 生命科学修士

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