鶏胸肉のテリーヌ

皆さん、お元気ですか。

本日は、鶏の胸肉を使ったテリーヌをご紹介したいと思います。

鶏の胸肉といえば、一般的に「調理するとパサついていて美味しくない」という声があると思います。
しかし、これに対しては2種類の解決法があります。
足し算と引き算のアプローチと言えばよいでしょうか。

まず一つは、引き算から。
パサつくほど火を通さなければいいのです。
まず、調理不足の食肉を摂食したことを原因とする食中毒を引き起こす食中毒菌にはカンピロバクター・O-157・サルモネラがありますが、鶏肉の調理不足で問題となる菌は主にカンピロバクターです。
カンピロバクターのより詳しい説明(Q&A)(東京都福祉保健局 食品衛生の窓l;東京都の食品安全情報サイト)によれば、カンピロバクターは中心温度60℃1分以上の加熱で死滅することが認められていますから、これを満たせば問題ありません。
そして、60℃では鶏の食肉組織内におけるアクトミオシンゲル構造は凝集を起こしませんから、組織からの離水も認められず、つまりパサつかないでしっとりとした食感で食べることができるはずです。
ちなみに、もっといえばアクトミオシンゲルは65℃付近で最も細密な網目構造を呈するので、そこまでは加熱を行っても問題ないと思われます。

そして、もうひとつの解決法は足し算です。
今回はこの、足し算の解法を詳細にご紹介してまいります。
基本的に、フランス料理は足し算の料理と言われますが、食材から失われてしまうものを外部から補うのです。
では、何を補いましょうか。
ここでは、コク、旨み、しっとり感を補っていくことにします。

では、レシピです。

<材料>
鶏胸肉(ここでは大山鶏) 1kg
生ハム          40g
全卵          3ケ
生クリーム40%     300g
塩           15g

ブライン溶液(5%食塩水)
水         400ml
食塩          20g

1.まず下準備として、鶏肉をブライニングします。
ブライニングとは、肉類等をブライン溶液(5%食塩水が一般的)に30分程度浸漬することで、調理後のジューシーさを保つ調理技法です。
おおまかな作用原理については、「Why Brining Keeps Turky and Other Meat So Moist」を参照して頂きたいのですが、通常の調理で30%失われる水分をブライニング処理により15%に抑えることもできるということです。

*簡単に原理を日本語訳しておくと、失われる水分を食塩水に浸して肉の中に予め足してしまおう(実際、重量で7-8%の水分がブライニング処理により増加したようです)、ということと、肉の中に浸透した食塩水が一部の筋原線維のタンパク質を変性させ、その変性タンパク質が水分子を抱き込むのだそうです。

2.その間に、生ハムをフードプロセッサーなどでアッシェにしておきます

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3.次に、水気をきった鶏胸肉の皮をとり、ささみを分けて筋をひきます
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4.ささみのみをデ(ダイスカット)にして、生ハムと合わせます。
生ハムは淡泊は鶏肉に旨みと深い味を加えるため、デのささみは食感のアクセントです。

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5.そして、胸肉を扱いやすい大きさにカットし、卵3ケ、塩15g、生クリ―ム300gと合わせてフードプロセッサーにかけます

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6.フードプロセッサーにかけた5を4と合わせ、混ぜます

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7.6をクッキングペーパーを敷いた型につめ、鶏皮を被せてオリーブオイルをかけ、アルミホイルで覆った後に、湯せんにしつつ170℃のオーブンで50分焼きます。

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以下が、完成した鶏のテリーヌをカボチャとリンゴのサラダの上にあしらったものです。

食べる直前に切り出したテリーヌの表面をフライパンなどでソテーすると香ばしく、ジューシーになってより美味しいです。

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写真は、冬に撮影した「大山鶏のテリーヌ、カボチャとリンゴのブルーチーズソース」です

Bistro2983 Chef Patron

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Master of Life Science 生命科学修士

 

5件のコメント 追加

  1. こうすけ より:

    はじめまして
    めんどくさいコメントすみません
    鶏肉の保水力がアップするのは理解できるのですが、なぜ鶏肉が塩水を吸うのかがわかりません
    5%濃度の塩水に鶏肉を漬けたら、鶏肉が水を吐き出すのではないでしょうか?
    もしよろしければそこらへん教えていただけると嬉しいです
    よろしくお願いします

    いいね

    1. bistro2983 より:

      はじめまして。
      コメントありがとうございます。
      体液の塩分濃度は0.9%程度ですので、浸透圧を考えるとお持ちの疑問は、まったく合理的だと思います。

      ただ、「鶏肉が塩水を吸う」というのは、もう少し厳密に定義しないといけないのかもしれません。
      一般的な食肉は主に筋肉で構成されていますが、この筋肉の基となる筋原線維を構成している筋細胞は、半透膜である細胞膜に囲まれているため、その中には塩水(厳密にいうと、その溶質のイオン化物質であるナトリウムイオン)は入ることができません。
      この場合は、半透膜で環境が仕切られているので、仰るように内外で浸透圧が発生します。
      一方で、筋原線維自体の構造としては筋細胞(筋線維)が筋周膜、筋内膜、筋外膜で段階的に取り囲まれており、これら筋膜は脂質二重膜である細胞膜とは異なり、コラーゲンで構成されている網目状構造のためナトリウムイオンも侵入できると考えられます。
      つまり、スポンジ構造のように筋線維と筋線維の間に塩水が入ることも、筋原線維への吸収と捉えることができるでしょう。
      これが、原典で”muscle fiber”と”muscle fibers”を使い分けている理由であると考えられます。

      以上、回答になっておりますでしょうか。
      また、何かございましたら、お気軽にどうぞ。

      いいね

      1. こうすけ より:

        お返事ありがとうございます
        水を吸う理由はなんとなくわかったような気がするのですが、今度はなぜ筋原線維タンパク質が変性するのかがわからなくなってしまいました
        筋繊維が半透膜に覆われていて溶質が中に入れないのであれば、なぜミオシンが保水性を発揮するのでしょうか
        しかし思ったのは、僕は食肉の基本がまったくわかっていなくてまずはそこをきちんと理解しないといけないと思いました
        僕は焼き鳥屋に就職が決まっていて、僕は料理は「論理×技術×感性」だと思っているので理屈を固めたいのですが、就職予定先の大将は科学とか必要ねえみたいな人間です
        いや、料理は化学反応だろと思うのですが、とりあえず大将から理屈を学ぶことはできないです
        わかってないし、わかろうとしないからです
        理屈を固めるには、どうすれば良いのでしょうか?
        できれば現役の科学者と知り合って直接質問をぶつけながら理解していきたいのですが、それはやはり大学に入るしかないのでしょうか
        とりあえずこれ読めみたいな本とかありますでしょうか
        すみません教えてください

        いいね

      2. bistro2983 より:

        こうすけさん
        こんばんは。
        変性に関しては、別の要因が関係してきます。細胞というのは、城塞のようなもので、細胞膜という城壁に囲まれています。基本的には、そこからの物質の出入りはできません。しかし、細胞膜には「チャネル」という城門が備え付けてあり、さまざまな状況や出入りするものの種類に対応して、大きさ、開き方が異なるように、たくさんの種類が用意されています。
        この細胞の城門はタンパク質で出来ているのですが、これは濃塩水の暴露によって破壊(ないし変性により機能を失活)されます。決壊した城門から、塩水が細胞内に流入するようになる、というわけです。
        このように、起こる現象に対して疑問をもって追及する、という姿勢および好奇心は人間がもてる特権であるし素晴らしいことだと思いますが、この向学心が逆に不満を招くようだと本末転倒になってしまうように思います。
        このようなブログを書いていてなんですが、私は、すべての料理人が科学的に充実した知識をもっている必要はないのかな、と思っています。実際、伝統的な調理法は、現代の科学の視点で見てみると「なるほど科学的である」と思うことが多々ありますが、それは連綿と続く創意工夫や偶然が積み重なって、「多くの人が美味しいと思えるやり方」に偶然収斂されたに過ぎません。タケノコに米ぬかを入れるのだって、「タケノコのシュウ酸が米ぬかのカルシウムにトラップされるから」と理屈で考えたのではないわけです。
        特に、焼き鳥に関していえば、「焼き台の上で時間経過に伴って鶏肉がどういう照りとハリに変わっていくか」ということへの観察の方が、味に与える影響は大きいでしょう。素材・手技(レシピ・経験・勘を含む)・集中力で十分にゲストを満足させられると思います(ちなみに、科学の実験でも手技というのは極めて重要で、不器用な人間に再現性の高い高度な実験は難しいです)。
        科学が必要なのは、そこを踏まえた、さらにその先です。就職先の大将が「必要ない」というのなら、こうすけさんが大将を超えるまでは必要ないと思います。
        (もちろん個人的にひっそりと勉強するのはいいと思います。いつか必要になるその時にゼロから勉強するのでは遅すぎるかも知れませんから)
        ちなみに、理屈を固めるには、体系的にキチンと勉強するしかありません。これに近道はないと思います。近年、巷にも科学的調理の本やサイトが氾濫していますが、それらも「ここは確からしいけど、ここは明らかに科学的に間違っている」というものがほとんどです。それを取捨選択するにも、しっかりとしたバックボーンがないと対応できません(これは、私のページにも言えることかも知れませんが)。
        もし本当に細胞の生化学について学びたいのであれば、「The Cell 細胞の分子生物学」という名著がありますが、生半可な気持ちでは立ち向かえません。ただ、これを理解できれば、生物系の大卒とも張り合えるでしょう。
        もう少し、料理に寄り添った科学的なアプローチがいい、ということであれば、エルヴェ・ティスの「フランス料理のなぜに答える」という本は読みやすくていいと思います。
        ただし、「書かれていること全てが真実かどうか」を疑ってかかるという「科学の本質」はお忘れなく。
        以上、回答になっておりますでしょうか。

        いいね

  2. こうすけ より:

    おつかれさまです
    わざわざどうもありがとうございました
    頑張ります

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